雄島を反時計回りに歩いた帰り、乾いた橋に濡れた足跡がついてきた話
Mさん(仮名・30歳女性・会社員)から、サイトのフォーム経由で届いた話。20代の終わりごろの体験だという。
福井に、雄島という島があります。陸から、朱い橋で渡れる、小さな無人島。
その島には、反時計回りに回ってはいけない、という言い伝えがあるそうです。回ると、よくないことが起きる、と。
私がそれを知ったのは、行ったあとでした。そのときは、まったく知らなかった。
友達3人と、平日の昼間に行きました。よく晴れた日。観光のつもりで、軽い気持ちで。
大学のときの友達で、年に何回か、こうやって日帰りで出かけていました。
駐車場に車を停めて、朱い橋を渡ります。長さは、200メートルくらい。下は、ごつごつした岩と、青い海。
島に渡って、まず神社にお参りしました。それから、島をぐるっと回る遊歩道へ。
なんとなく、左のほうから歩き始めたんです。あとで思えば、それが反時計回りでした。
途中までは、ふつうでした。古い鳥居。波に削られた岩場。低い松の林。
海がきれいで、写真もたくさん撮りました。みんな、はしゃいでいた。
ひとつだけ、覚えていることがあります。途中の岩場で、平らな岩が、ひとつだけ濡れていました。波のかかる場所でもないのに。そのときは、気にも留めなかった。
一周して、橋のところまで戻ってきたときです。
急に、風が止まりました。
それまで聞こえていた波の音も、鳥の声も、ふっと消えた。耳が痛くなるくらいの、静けさ。
変だね、と小声で言いながら、橋を渡り始めます。
そのとき、後ろから、音がしました。
ぴしゃ、ぴしゃ、と、濡れた足で板を踏むような音。
振り返るのが怖くて、足元だけ見ました。
乾いていたはずの橋板に、濡れた足跡が、ひとつ、またひとつ、ついてくる。私たちの、すぐ後ろに。
誰も、いないのに。
4人とも、何も言わずに、早足で渡りきりました。
駐車場まで来ると、波の音が、戻っていた。
あらためて橋を振り返っても、板は、ぜんぶ乾いている。濡れた跡なんて、どこにもありません。
足跡のことは、その日は誰も口にしませんでした。言ってはいけない気がして。
おかしくなったのは、そのうちの1人です。
彼女は、それから毎晩、同じ夢を見るようになりました。
海の中から、あの朱い橋を、下のほうから見上げている夢。そう言っていました。
半年ほどで、夢は見なくなったそうです。
ただ、いちばん最後に見た夢では、橋の上に、自分たち4人が立っていたそうです。それを、下のほうから、誰かが見上げている。
でも彼女は、それから海に近づかなくなりました。プールも、だめだと。
私も、あの島には、二度と行っていません。